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アンチグルメとしての『孤独のグルメ』~実写版との比較も含めて

『孤独のグルメ』は、以前からその独特の台詞がネットにおけるネタとして定着し、知る人ぞ知るといったマンガだった。

それが最近『花のズボラ飯』このマンガがすごい!2012の第一位に選ばれたということで、同作者による『孤独のグルメ』の注目度も上がった。
それを好機とみたのかどうかは知らないが、それと並行してテレビ東京で『孤独のグルメ』の実写ドラマ化が決定した。この実写ドラマ版『孤独のグルメ』が、深夜に美味そうな飯をかっ食らう映像を流して深夜に視聴者の食欲を掻き立てる夜食テロとして話題になり、作者も予期しなかったほどの好評を得て、現在実写ドラマの二期が放映中である。
このような実写ドラマ版の大成功を経て、『孤独のグルメ』という作品の知名度が以前と比べて急上昇している。

ただ、そのような広がり方をしているため、実写ドラマ版のイメージでしか『孤独のグルメ』を知らない層が増えているのも事実だ。
結論から言ってしまうと、『孤独のグルメ』の原作漫画とドラマとではまったくの別物である。

自分は、以前から存在自体は知っていた『孤独のグルメ』がドラマ化するということを聞いてすかさず新装版で原作マンガを読破した人間だが、個人的にはいろいろすごいマンガだと考えている。
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(2008/04/22)
久住 昌之

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そして、この原作を知らずに多くの人が『孤独のグルメ』を語るのは非常にもったいないことだと考え、以下の文章を記した。

なおこの新装版に収録されている病院食の回以降も、原作漫画はSPA!誌上にて不定期連載中である。新装版に収録されていない分の内容はこのサイトで確認できる。
書籍になっている内容を著者自身が公開しているサイトなので、問題ないだろう。多分。


さて、グルメという言葉を聞いて、『美味しんぼ』を思い浮かべる人は多いだろう。
仮にそうだとすれば、『孤独のグルメ』は紛れも無くアンチグルメ漫画である。

『美味しんぼ』と『孤独のグルメ』を比較している文章を適当にググって調べてみたら以下の文章が出てきたので、参考にされたし↓
久住昌之/作画・谷口ジロー『孤独のグルメ』

↑の文中にもあるが、『美味しんぼ』で美食倶楽部なるものを作っていろいろ暴れるご存知海原雄山が実在の美食家北大路魯山人をモデルにしているというのは有名な話である。
その思想は例えば

「美味しいものを食べながら政治の話をするなんて、いちばん不純でしょう」

等の言葉に代表されるように、いわば食の超然性、絶対性、純粋性を追求する類のものである。
そういう思想が「この世で一番美味い○○は何か?」につながり、それが、究極の料理のための究極の素材を求めてみたり、料理人の職人的美徳を理想としてみたりするわけである。
そして言うまでもなく、食の超然性を美徳とし、絶対性を崇め奉り、純粋性を常に求めるその美食観の在り方は、数々のグルメ番組の根本的な思想に多大なる影響を与えている。

そのような美食道の見地からすると、『孤独のグルメ』という作品やその主人公である井之頭ゴローはいちいち掟破りである。
タバコも吸うし、自然食ブームを痛烈にディスるし、ジャンクフードもガンガン食べる。飲食店ではなくコンビニや病院が舞台になることすらある。そして不味い飯しか食えなかった回もかなりの頻度で出てくる。こういう風に、まるであてつけのように純然たるグルメの掟を破り、食の超然性、絶対性、純粋性を否定して見せるのである。
特に自然食の回は、例えば有機野菜を(実はかなり頓珍漢な論理で)賞賛してみせる『美味しんぼ』を名指しで批判しているようにしか思えない。

引用した文章で述べている通り、料理それ自体ではなく「社会関係そのものを食べる行為」「孤独という社会関係を食べ」る行為としての食事を丹念に描いているのが『孤独のグルメ』という作品といえるだろう。
そのようなスタンスで描かれた結果、上記のようなグルメ志向の人々や店をディスりながら物語は進むし、望んだ食事の形が失敗に終わることも度々あるし、「名物にとらわれなくてもいいじゃないか、自分がおいしけりゃ」という台詞が出てくるのも必然である。


ところで自分はこの前「ラーメンと愛国」という本を少し読んだ。
ラーメンと愛国 (講談社現代新書)ラーメンと愛国 (講談社現代新書)
(2011/10/18)
速水 健朗

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読んだといっても立ち読みでパラパラめくった程度だが、よく考えたらラーメン屋の職人的美徳、それを煽る人間の論理、群がる人々の精神、これらって結構病的だよなぁという感想を抱いたものである(実際の内容はもっと違うものだと思われるので、興味のある人は読んでみるといい。二郎ラーメンのことも描いてあるからw)。特に昔なんかは、客に激怒する某店長が食を追求する職人の鑑みたいな形でもてはやされたこともあったし。
ラーメン業界はもっとも顕著な例だと思うが、世の中には相変わらずそれに似たグルメ精神がマスコミを通じてあふれかえっている。夕方のニュース番組とか、後半の一時間をグルメ特集に費やしてる局もあったりで伸ばしに伸ばした放送枠を持て余してる感がものすごいのだが、そういったものに容易く煽られてしまう現代人(「ほんとに現代なのか?ほとんど近代じゃねーか」とも思う)にこそ、『孤独のグルメ』を読んで「食」という営みについて考え直すきっかけになって欲しいと自分は強く思っている。
説教臭い言い回しになってしまったが、本当に面白いから、是非。


話は変わって。
冒頭で書いたとおり、『孤独のグルメ』はテレビ東京で実写ドラマ化された。それも漫画原作の作品によくある製作委員会方式でなく、テレビ東京が直接製作するスタイルになっているようだ。
テレビ東京といえばアニメ以外にもグルメ番組にめっぽう強く、休日のお父さんがチャンネル占拠すると高確率でテレ東のグルメ番組を視聴する羽目になる、といった光景が皆様にも心当たりがおありかと思われる。
そんなテレビ東京が実写版『孤独のグルメ』を製作したことで、何が起こったかというと、本来アンチグルメ漫画である『孤独のグルメ』が完全にグルメ番組の体裁で実写化されてしまったのである。

実際見た方はお気づきかと思うが、ドラマ版に出てくる店はすべて実在の店である。ということで、原作どおりにゴローが店と客をディスりまくってしまうと、早い話が営業妨害につながってしまう。ということで、ドラマ版のゴローは店に対する不平不満をまったく言わず、出された飯に対しては絶対に「美味い」と言うしかないのである。
まずこの点だけでも原作漫画とはかなり趣を異にしているのが、原作を読んだ人間ならお分かりだろう。

また原作漫画では、ゴローは食事をした際にかなりの確率で失敗している。要らんことをやらかしたばっかりに不味い飯を辛酸とともに食わざるを得なかったことが非常に多い。あるいは周囲の人間のせいで台無しになってしまうこともある。
それに対して実写版の各話の食後感はもれなく良好であり、ドラマとしてもかなりワンパターンになってしまっている。だいたい偶然に見せかけた作為でもってゴローが店選びを絶対失敗しないというところがいかにもグルメ番組といったところだろう。店選びに失敗してかつ出演者が「この店失敗だったわ」って発言するようなグルメ番組があったら是非教えて欲しい。逆に見たいから。
まぁこれに関しては、ゴローが毎回美味い飯食うのを見るドラマとしての様式美になってるので、そういう方向性で作ったドラマとしては特に問題は無い。ただ、原作はもっと奇想天外な展開をしており、それが完全にスポイルされているのはやはりもったいないとも思う。

それと関連するのだが、人間火力発電所と同じく、アームロックもドラマで行われた。
ただ、ほぼ原作どおりになされた人間火力発電所に対して、アームロックについては大幅な変更が加えられた。
原作のアームロックは簡単にまとめると

中国人店員の未熟さを客の前であることを気にせず店長が怒鳴る

不快感をこらえ切れなかったゴローが苦言

店長キレて襲い掛かる

アームロックで返り討ち

中国人店員「それ以上いけない」

かばったはずである当の中国人店員に諌められ、矢も盾もたまらずゴローは店を去る

ゴローの台詞「あーいかんなあ・・・こんな・・・いかん いかん」で終わる


といった感じで、後に残るのは「食」の営みを自ら無碍にしてしまい、あまつさえそれが徒労に終わってしまう虚しさである。

これに対して実写版だと、ガラの悪いモト冬樹を成敗するためにアームロックをかけて撃退し、拍手喝采を浴びる、といった感じになってしまっている。


未読の方でもここまで読んでいただければなんとなく分かると思われるが、『孤独のグルメ』はゴローが人から感謝の言葉を受けるような作品ではないのである。そもそもそれじゃ孤独でも何でもねえじゃんという話で。んで何事もなかったかのように飯食いに帰るなよ
言うまでもなく改悪以外の何者でもないのだが、言ってみれば無害な善人であるドラマ版のゴローだったらこうなっちゃうのかなぁとも思う。
アームロックの件が実写版の改悪が最も顕著に現れている箇所だと思うのだが、要するにまったくの別物である。



ただ、原作重視の観点で見れば間違いなく改悪ではあるのだが、いったんそこを離れてみるとこういう実写版『孤独のグルメ』も自分はアリだと思っている。
そもそも、いちいち店や他人をディスりまくる辛気臭い原作をそのまま電波に流したら、二期が作られるほどの人気は出なかっただろうし、そもそも実在の店をドラマの人物が実際に訪れて美味そうに食事するという企画自体、ドラマという枠組みではともかくグルメ番組という枠組みの中ではそれなりに斬新である。
それに、何よりハゲ原作者が積極的に酒飲んで美味い飯食って参加してるんだから、自分らは何も言えないのである。原作漫画の最新作はドラマ一期が放映された後に発表されたものだが、遠路はるばる鳥取にまできて市役所の食堂でカレーとラーメンを食う等の相変わらず尖った作風であるのを見ると、ドラマで原作を忠実に再現してくれることなど原作者からしてハナから望んでいない。そもそも過去に一茂主役の実写化企画を蹴ってるし、一期最終回のコメントなども見ても、原作読者からの痛烈な批判は覚悟していたようである。ドラマ版の音楽制作まで請け負ってるハゲの心底楽しそうな笑顔に免じて許してやれよ、という話だ。


ただ、ここまでグルメ番組そのものな製作スタイルだと、コンビニ回とか病院食回とか間違っても作られないんだろうなぁというのは、やはり寂しい。ブラジル料理回でスーパーマーケットで調子に乗って買い物する描写が申し訳程度に挿入されているのだが、全然足りない。




といった感じで、『孤独のグルメ』の原作とドラマは完全に別物である。
ドラマ版はドラマ版で良作だと思うが、個人的にはやはり一度は原作を読んでいただきたい。あまりにも方向性が違いすぎて驚くかもしれないが、寡作ながらグルメ漫画として紛れも無く傑作である。


ps:なお『花のズボラ飯』は『孤独のグルメ』とは真逆の方向性の作品である。一応ドラマもチェックし続けてはいるが、自分は正直原作からして生理的に受け付けなかった

theme : 漫画
genre : アニメ・コミック

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かうんたぁ
プロフィール

ごてぃ

Author:ごてぃ
茨城から都内の大学院に通う人
専門は中国近現代文学のはず
文章を書かせると人格が変わることに定評があるらしい
「誰だか知らないけど有名人っぽい」と意味不明な事を言われる
黄昏をこよなく愛する男。

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